変革を迫られる日本の新卒採用[3/5ページ]
東京大学大学院教育学研究科 本田 由紀 教授
3)見逃せない社会への影響
---ここまでは、新卒一括採用のプロセスが抱える課題についてお話しいただきましたが、こうした採用活動の結果生ずる問題には、どのようなものがあるのでしょうか。
不明確な基準で選抜が行われることや、就職後の職務についての情報が少ないことから、ミスマッチによる早期退職や意欲低下が指摘されています。現状では、大学の新卒者の3割以上が3年以内に離職しています。また、内定を得られないまま大学を卒業した場合、その後の就業機会が非常に限られるという社会問題も発生しています。(図1)
毎年のように事例を積み重ねていける企業と違い、学生にとって就職活動は人生で初めての経験です。ですから、たまたまうまくいかなかったケースもあるはずです。しかし、一度既卒者になってしまうと、企業側から「何か問題があって就職できなかったのではないか」と考えられることになり、最初の段階で落とされてしまう可能性が高くなります。厳選採用の場合、どうしても「ふるい落とす選考」になりがちなので、既卒者にとっては非常に不利になってしまうわけです。
このように、せっかく採用した人材でも、流出したりパフォーマンスが低下したりすることは、企業にとって大きな問題ですし、既卒者の就職のチャンスが減ると、若年層の失業や低所得化につながります。それは、彼らが潜在的にもっている力が発揮される機会が喪失するということです。ひいては、日本経済全体が景気浮揚を妨げられる要因となる可能性もあります。
■新卒新入社員の離職率(図1)
出所:厚生労働省職業安定局集計「新規学校卒業就職者の就職離職状況調査」