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新卒採用の実務(1)要員計画から年間採用活動計画へ

<INDEX>
(1)採用市場の動向分析
(2)要員計画・要員調査
(3)自社の「採用力」を知る~現状認識と過去の振り返り
(4)採用方針の決定
(5)年間採用活動計画の作成
(6)採用基準(求める人物像)の設定

新卒採用を行う際は、将来を予測しながら経営計画を達成していくために必要な人材戦略を明確にし、採用人数や求める人材像を明らかにすることが重要である。その際、必要に応じて社内の人材の活用、従業員の定着や業務の効率化といった課題を並行して検討しながら要員計画を策定する。その上で採用方針を決定し、年間採用活動計画を作成していくことになる。

(1)採用市場の動向分析

●国内景気や求人倍率、「指針」や競合他社などの状況を把握する

採用活動は、自社だけの都合で展開できるものではない。雇用動向に直接的に影響を与える国内景気は、採用の難易度にも大きく関わってくるからだ。その際、人材情報会社などが発表する「求人倍率調査」などが近年の需給状況を示すものとして参考となるだろう。実際の採用活動のタイミングは、「就職協定(倫理憲章)」の「指針」に規制されたり、水面下における各社の動向にも影響を受けることになる。2016年卒の採用から、採用広報や採用選考の時期がこれまでより4ヵ月後ろ倒しとなったが、「指針」を守っていては学生が確保できないと、選考解禁前に「面談」と称して学生と接触する動きもあったようだ。自社の採用戦略を構築する上では、こうした実態と基本的な情報を的確に把握することが大切である。

特に採用で競合することの多い企業や業種の採用動向を把握することは、重要と言える。マクロ的に見て採用環境は改善しているという結果があっても、自社がどうであるかはまた別問題。例えば、学生に事業活動の実態が見えにくい企業などは、その恩恵に浴さないことも少なくない。マクロ環境よりも、個々の企業や業界の状況が採用成果にどのように影響しているかに注目し、対応を検討する必要がある。

(2)要員計画・要員調査

●的確な要員調査から、要員計画が導き出される

要員計画とは、「事業運営のために必要な人材を量的・質的に確保し、配置するための計画」である。単年度計画なら当該年度の事業運営上の人材ニーズ、長期計画であれば長期的な人材ニーズを充足させるために策定・実施される。これにはマクロ的手法とミクロ的手法がある。マクロ的手法とは「労働分配率」「損益分岐点」などから適正人件費を算出し、必要な要員数を求めるものである。ミクロ的手法は「積み上げ方式」とも呼ばれ、部門や職種、階層別に必要な人員を現場から報告してもらい、それを合計したものである。いずれにしてもコスト・経営合理性の観点から算出したマクロ的採算人員数と、積み上げられたミクロ的必要人数との調整をどう図るかが、経営・人事にとって重要な課題と言える。

要員調査とは、要員計画を立案するための基本情報となるものだ。「職場ごとの要員ニーズ」と「会社としての要員ニーズ」に分けられ、それぞれの観点から情報収集・ヒアリングを行い、取りまとめていくことにより、要員計画がスタートする。

■要員調査の視点
【職場ごとの要員ニーズ】
・欠員補充としての要員ニーズ
・定型的業務対応としての要員ニーズ
・高負荷業務対応としての要員ニーズ
・高い専門性を持った職務経験者、高度技術者の要員ニーズ
【会社としての要員ニーズ】
・事業計画、事業展開による要員ニーズ(グローバル対応、新規事業進出、多角化展開など)
・従業員労務構成の是正のための要員ニーズ(年齢別人員構成の歪の是正など)

(3)自社の「採用力」を知る~現状認識と過去の振り返り

●企業の採用成果とは、「採用力×採用活動」

採用力(魅力度)には業種や企業による格差があり、特に新卒採用では採用力を念頭に置いた活動を行うことがポイントになる。そもそも企業の採用成果は「採用力×採用活動」の関係にあり、採用力の小さな企業は採用活動の部分を大きくする必要があるからだ。採用力の大きな企業と採用活動が同じであれば、採用成果は期待できない。採用成果を上げるためには、経済環境や雇用環境、競合他社の状況、そして自社の採用力などを整理し直すことによって、自社の置かれている実情やポジションを再確認(現状認識)することである。

それと同時に、過去の振り返りが必要である。振り返る項目としては、「採用実績」「採用活動スケジュール・内容」「採用体制」「採用経費(費用対効果)」などがある。これらを把握・確認することにより、自社の採用力の現状と目指すべき方向を知ることができる。

■振り返り項目
【採用実績】
過去の採用実績はどのくらいで、採用目標に対する達成率はどのくらいであったのかを、ターゲット別に把握することによって、無理のない実現可能な採用数が設定できる。逆に、設定採用数を達成するためには、どのような採用活動を行うべきかが分かる。
【採用活動スケジュール・内容】
採用活動をそれぞれの段階(事前準備、募集方法、情報管理、選考、面接、内定フォロー・管理など)に区分した上で、各々の活動におけるイベント、施策、対応の内容を整理・把握する。それらの過去の活動実績や競合他社との違い、並びに学生の全体的な動き、各企業の動向などと比較することで、問題点や反省点、課題を抽出する。
【採用体制】
採用体制には、採用を推進していくための「仕組み」「システム」と、推進していく際の「スタッフ構成(責任者と実務担当者)」の二つがある。企業によってはスタッフ構成が十分でなくても、独自の採用システム・仕組みの中で採用活動を行い、実績を上げているケースも少なくない。こうした観点も含め、前年度の学生対応度(タイミングよく学生と接触するなど十分なフォローがなし得たか)、イベント消化度(数あるイベントをうまくこなせたか)、採用担当者の活動(リクルーター活動はできたか、効果はあったか)などを振り返り、チェックすることで採用体制の改善へとつなげる。
【採用経費(費用対効果)】
採用における費用対効果を上げるためには、経費の管理を行うことが大切である。過去からの実績を各費目(就職情報サイト、会社説明会、業界セミナー、内定者フォロー・管理、外部委託、接待交際関係など)ごとに把握・管理し、その効果を見ることで、今後の対応を推測することが可能である。

(4)採用方針の決定

●採用方針として、具体的な採用活動計画の「考え方」「狙い」をまとめる

要員計画から、具体的な採用活動計画につなげていくための骨子となる「考え方」「狙い」をまとめたものが、採用方針である。採用方針として決定するべき視点は、以下の通りである。

■採用方針決定の視点
【採用目標数の決定】
要員計画を踏まえつつ、過去の採用活動の振り返りや現状認識を行い、問題点の把握や改善を行った上で、実現可能な採用目標数がどれだけなのかを決める。その際、採用目標数は自社の採用力を意識しつつ、少し高めに設定することがポイントだ。それにより、会社全体の採用に対する意識が鼓舞され、また採用途中での採用活動(採用目標数)がコントロールしやすい、というメリットがある。
【採用ターゲット別目標数の設定・取り組み方針】
採用目標数を決めるに当たっては、ただ単に「数だけ揃えばいい」ということではなく、どのような採用ターゲットに対して、どれだけの人員を配分するかを決めることが重要である。そのため、それぞれのターゲットに対してどのような狙い、コンセプトで採用するのかを明確にしておくことが求められる。そうしなければ、最終的に数が揃えばいいといった数合わせ的な採用に陥ってしまう恐れがあり、将来的に人材の育成・定着という観点から、支障の出る可能性が強くなるからだ。ターゲットごとの採用目標を明確にした後は、それぞれのターゲットに対する取り組み方針をまとめる。「採用活動計画」では、この取り組み方針に基づいて年間の活動計画を策定する。
【採用活動全般に対する基本方針】
基本方針は、要員計画に基づいた採用活動計画を実効あるものとして推進するために、どのような視点が必要なのかを大きくコンセプトとしてまとめたものである。この方針を、この後の年間の採用活動計画での具体的採用活動施策へと反映させる。

(5)年間採用活動計画の作成

●採用目標数を達成するためのアクションプランを作成する

設定された採用目標数を達成するためには、具体的な採用活動に落とし込んでいく必要がある。年間採用活動計画は、そのためのアクションプランである。採用方針で決定された採用給原別の取り組み方針や採用活動全般に対する基本方針を具体化させていくとともに、過去の振り返りで得られた問題点(採用ツール、就職情報サイト、イベント、採用体制、採用経費、内定フォロー・管理など)を改善し、年間採用活動計画に織り込んでいくことが求められる。年間採用活動計画を策定していくに当たって考える視点は、以下の通りである。

■年間採用活動計画策定の視点
【過去の振り返りによる改善点の織り込み】
目標通りの採用数を確保するためには、旧来の延長線上のままの採用活動から脱却し、過去の反省の下に立って新たな工夫や改善点が織り込まれる必要がある。こうした年ごとの工夫や改善が、企業にとって生きたノウハウとして蓄積され、強固な採用基盤の一つとなる。
【各採用活動施策の全体的スケジュール管理】
応募者へのアプローチ・拡大期など、採用活動に関するさまざまな施策は、例えば俯瞰図など一つのデータ形式(図表1:全体的スケジュール管理(例))にまとめ、全体的にスケジュールを管理、共有する必要がある。そうすることによって、各施策を体系的に管理できるとともに、各施策のつながりが明らかになる。また、チェックシート化することによって、時期による過負荷に対する体制整備の必要性や新たに必要となる施策の発見、重複する余計な施策の有無などを判断する上での資料としても活用できる。
【採用進捗状況の管理・把握とフィードバック】
採用活動をより計画的に進めていくには、しっかりした採用方針、年間採用活動計画の策定に合わせて、それらの施策が予定通りに行われ、実績として反映されているのかを定期的に把握・チェックする必要がある。特定給原や職種の採用進捗率が思わしくないような場合には、その結果をフィードバックし、必要な施策を付け加えるなど対応の修正を行う。

(6)採用基準(求める人物像)の設定

●業種・業態、経営理念、事業戦略、社風などを踏まえて具体的に設定する

年間採用活動計画が策定された後、対応すべき事項として重要なのが「採用基準(求める人材像)の設定」である。この基準を元に、採用活動が展開されるからだ。採用基準は業種・業態、経営理念、事業戦略、社風などを踏まえて決定するのが合理的である。近年、多くの企業で似たような採用基準が見受けられるが、自社にとってどのような人材を求めるのかを社内で議論して、自社なりの言葉でできるだけ具体的に表現することが大切である。抽象的な表現では、選考の場面で判断することが難しくなるからだ。採用基準を設定するためのアプローチ例として、以下にチェックポイントを示す。

■採用基準を設定するためのアプローチ例
  • 採用する人物に、短期的、長期的にどのような仕事を要望するのか(仕事面からのニーズ分析)
  • その仕事には、どのような面白さ、苦労があるのか(仕事分析)
  • その仕事をするには、どのような知識、能力、適性が必要か(仕事面での必要要件の抽出)
  • 自社の組織で成功するのはどのような価値観(仕事、組織、人間)を持っている人か
  • 社内で、求める人材像のシンボルとなる社員は誰か(シンボライズ1)
  • 社内に限らず、シンボルにできる人材は誰か(シンボライズ2)
  • シンボライズされた人材は、どのような場面でどのように行動する人か(キャラクタライジング)
  • 学生生活に置き換えると、どのような場面でどのように行動してきた人か(ターゲットフォーカス)
  • 短期的、中長期的な観点から、求める人物を各々何人採用することが望ましいか
  • 事業戦略、生産性を踏まえた要員計画から検討する

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企画・編集:『日本の人事部』編集部

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