新卒採用の実務(2)募集方法の策定と情報管理
- <INDEX>
- (1)採用情報の公開
- (2)募集方法の種類
- (3)リクルーター制度
- (4)学生情報の収集と管理
採用方針、年間採用活動計画、採用基準(求める人物像)が決まったら、次は募集方法の策定と学生の情報管理のステップに入る。さまざまな募集方法の中から、採用目標を達成するために効果的で、自社の求める人材像をアピールできるものを選択。リクルーターなど他の部門の協力を仰ぎながら、全社的な採用体制を構築していくことが大切である。
(1)採用情報の公開
●公開する情報は「会社」「募集・採用」「処遇・労働条件」
採用計画が具体的になったところで、就職予定の学生に対して採用情報を公開し、応募を働きかける。その際、公開する情報は以下の通り「会社に関する事項」「募集・採用に関する事項」「処遇・労働条件に関する事項」の三つに、大きく分けることができる。
- 【会社に関する事項】
- ・会社名、本社所在地、電話番号、ホームページのURL
- ・代表者名、役員名
- ・事業内容、事業計画
- ・事業規模(資本金、売上高、従業員数、事業所・拠点数)
- ・設立、沿革
- ・企業理念、経営ビジョン など
- 【募集・採用に関する事項】
- ・採用予定人数(文系・理系別、事務系・技術系別)
- ・募集職種、募集雇用形態
- ・応募資格
- ・提出書類、提出先
- ・応募の受け付け開始時期、締め切り時期
- ・選考方法
- ・求める人物像 など
- 【処遇・労働条件に関する事項】
- ・給与(賃金形態、基本給、手当、昇給)
- ・賞与
- ・労働時間(始業・終業時刻、所定労働時間、休憩時間)
- ・勤務地
- ・仕事内容
- ・休日・休暇
- ・教育体系、キャリアプラン
- ・昇進・昇格
- ・福利厚生
- ・産休・育児介護
- ・労働条件等の変更 など
なお、採用情報について、職業安定法(第5条の3)では「労働者の募集を行う者は、求職者に対し、その者が従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定しており、これを受けて厚生労働省は「募集内容の的確な表示等に関する指針」(告示第141号)を定めている。指針では、「労働条件等の明示にける配慮」「業務の内容」「労働時間」「賃金」「労働条件等の変更」に関して、明示する事項を求めている。職業安定法の規定は新卒者の募集にも適用されるので、この規定に遵守して採用情報の提供を行う必要がある。
(2)募集方法の種類
●数ある募集方法の特徴を知り、自社に合ったアプローチを行う
新卒採用を行う際、募集方法は多岐に及ぶ。情報がリーチ(到達)する範囲や費用、手間暇など、それぞれに特徴があるので、採用の規模やレベルに合わせて利用することがポイントだ。具体的には以下のような方法があるが、それぞれの募集方法の特徴をうまく組み合わせること(メディアミックス)で、相乗効果が生まれる。
- 【就職サイト】
- 「リクナビ」「マイナビ」など、就職情報会社が運営する就職専用のサイトのこと。就職を希望する学生の多くは、就職サイトに登録することから就職活動をスタートする。就職サイトは極めて多くの学生に情報を伝達できるというメリットがあるので、採用母集団を形成するための手段として適していると言えるだろう。一方で、就職情報会社が指定する情報しか掲載できないので、自社が学生に提供したいと考える情報の全てを公開できるわけではない。また、掲載には相応の費用がかかり、会社の知名度が低いと多くの学生に閲覧してもらえないこともある。
※詳しくは『新卒採用.jp - 就職サイト』を参照
- 【採用ホームページ】
- 採用ホームページは、その会社の“顔”というべき存在で、自社の考えや方針に沿ってコンテンツを自由に決めることができる。会社案内やDMなどの紙媒体と違って、いつでも自在に修正や更新を行うことも可能である。内部で制作すれば、コストもあまりかからない。また、表現の工夫次第で会社の魅力を高め、学生に強い印象を与え、応募を勧誘することができる。逆に言うと、コンテンツの内容が平凡であったり、表現方法や構成がありきたりであったりすると、学生から採用にかける姿勢を問われ、センスのない会社という印象を与え、敬遠される可能性もある。
- 【合同会社説明会】
- 一つの会場に多くの企業が集まり、学生に対して採用情報の提供を行うイベントのこと。自治体や就職情報会社などが主催するケースが多く、会場では企業ごとにブースを設けて学生の訪問を受け、採用担当者と学生が直接対話する。参加者を集めたり、会場を確保したりするなどの苦労をしないで済むというメリットがある。ただ、来場する学生の中には出展企業への理解が不十分で、志望動機が希薄な学生もいるので、ブースに呼び込むための仕掛けやプレゼンテーションをどうするかなど、学生に注目してもらうための工夫が必要になる。
- 【会社説明会】
- 合同ではなく、自社単独で採用情報の説明会を開催するイベントのこと。単独で開催するので、採用情報を詳しく丁寧に説明することができる。一定の関心を持った学生が参加するので、話を熱心に聞いてくれることが多い。その意味でも、「若手社員を登場させ、入社した理由や仕事の満足度、職場の雰囲気を伝える」「実際の職場の映像を流す」「別枠として、質疑応答の時間を設ける」など、学生が興味を持つプログラムになるよう、工夫を凝らすことが大切である。また、参加者にはアンケートを行い、個人情報を収集し、その後の採用活動に役立てていくようにする。近年では、会社説明会をウェブ上で行うケースが増えている。採用スケジュールの後ろ倒しにより、採用活動期間が圧縮される中、リアルの会社説明会に学生が集まりにくくなっているため、参加へのハードルを低くすることで、多くの接点を持とうとするのが狙いだ。
- 【学内セミナー】
- 大学が主催する就職セミナーに参加し、採用情報を伝えるという方法。大学が主催しているので、会場の手配やセッティングなどの手間がかからない。学内ということもあり、学生が熱心に話を聞いてくれるという特徴がある。しかし、合同説明会と同様、複数の会社が出展するため、1社当たりの持ち時間に制限が設けられる。そのため、詳しい情報は配布資料に記し、口頭では訴求するポイントを絞るなど、説明には工夫が求められる。
- 【大学への求人票送付】
- 大学の就職部(キャリアセンター)に求人票を送付し、掲示してもらうという方法。求人票を送付するに当たり、大学の就職窓口担当を訪ねて、事業内容や社風、採用実績などをアピールし、自社に合った学生の紹介を依頼するわけだが、この場合、事前に大学との良好な関係性を作っておくことが大切である。そのため、求人を依頼する時だけなく、定期的に訪問して情報を提供するなど、継続的な関係作りを保つことがポイントになる。
- 【ハローワーク】
- 各都道府県には「新卒応援ハローワーク」が設置されおり、そこに求人票を出して、掲示してもらうことができる。ハローワークは国の機関なので信頼でき、利用料は無料。また、ハローワークを通じて募集を行う企業には中小企業が多く、大手企業と競合することが避けられる。ただし、ハローワークを利用しない学生もいるので、幅広い学生に出会うことは難しい点を考慮しておく必要がある。
- 【ソーシャル・リクルーティング】
- facebookやtwitterなど、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)に採用情報を掲載し、応募を呼び掛けるという方法。就職サイトや採用ホームページとは異なり、より身近な雰囲気で情報を掲載でき、応募者の情報も取得できるので、コミュニケーションを取りやすくなる。また、学生にとっても「会社の雰囲気や風土を知ることができる」「人事担当者と直接コミュニケ―ションが取れる」「同じ業界志望の学生と情報交換ができる」など、数々のメリットがある。リスク管理、情報漏えいなどの点から、投稿には慎重に対応することが必要だが、SNSをうまく活用することにより、企業が自社の魅力を埋もれさせることなく、日常的に情報を発信することができる。
※詳しくは『新卒採用.jp - ソーシャルリクルーティング』を参照
(3)リクルーター制度
●リクルーターから知る、会社のソフト面の情報
リクルーター制度とは、人事部からの要請を受け、その会社の他部門の社員が採用業務の補助を行う仕組みのことである。採用シーズンに十分な採用活動を行うには、採用担当者だけでは不十分。そこで、応援部隊として他部門のリクルーターの存在がクローズアップされる。特に、採用の初期~中期段階で活用されることが多い。学生が企業を判断する際の情報として、売り上げや利益、事業内容などハード面での情報は採用ホームページなどから入手できるが、社風や働きがいなどのソフト面に関する情報は、リクルーターなどを介して入手するしかないケースが多いからだ。実際、リクルーターからの熱いメッセージが学生の他社に入社する意思を翻意させることもよくあり、リクルーターの良し悪しが、採用の成果に大きく影響している。その意味でもリクルーターは、“メディア(募集媒体)”そのものであると言えるだろう。リクルーターの人選次第で、企業のイメージが大きく左右されることも少なくないのである。
このようなリクルーターの存在価値を考えると、オンシーズンの一時期において、通常の業務を多少犠牲にしてでも、人間的な魅力に溢れるリクルーターを抜擢することが重要だと言える。リクルーターとしての在任期間中は通常業務を軽減し、採用に対する寄与・貢献などを業績評価に取り組むくらいの対応が必要になってくるかもしれない。
ただし、大学のキャンパスに立ち入って何らかの活動を行うような場合には、大学に事前に相談し、許可を取ることを忘れてはならない。リクルーターが大学のOB・OGであっても、そうした手続きを省くと問題になるケースがあるので、大学内における対応には十分注意を払う必要がある。
(4)学生情報の収集と管理
●情報収集し、選考の進捗状況を確認する
さまざまな募集方法によって学生の情報を入手したら、次はそれをデータベース化(管理)し、選考・内定へと進んでいくことになる。その際、ほとんどの就職サイトでは、採用情報を掲載してエントリーを受け付けるだけでなく、応募者の管理機能やコミュニケーション機能が備わっているため、この機能を活用することで、応募してきた学生のプロフィールや選考の進捗状況を確認することができる。さらに、ターゲットとなる学生に対してウェブDMを送信する機能がある就職サイトの場合、大学や学部・学科、居住エリア、希望勤務地、保有資格、志望業種・職種、仕事に対する価値観、学生時代の経験など、さまざまな軸(属性、切り口)から絞り込みをかけてメッセージを送ることができる。要は、最初から求める人材にターゲットを絞って、コミュニケーションをとれるというわけだ。採用活動が紙媒体からインターネットに移った現在、学生に関する情報の収集と管理では、このようなターゲットを特定できる具体的なアプローチ(仕組み)と、スピーディーに連動していく必要があるだろう。
一方で、リクルーターや就職部・研究室などとの接触から得られた情報、会社説明会や前年度の内定者から得られた情報なども定量的に処理し、管理していくことが必要である。事実、リクルーターや就職部・研究室から得られた情報は、そのままでは個人レベルに分散してしまう可能性がある。例えば、訪問カードのようなスタイルで情報を集積し、情報の一元化を図ることである。
会社説明会を開催する場合も、本人も含めた学生全般の動向をヒアリングしておく必要がある。インターネットを通じた学生間の口コミ情報網はかなり発達しており、いくつかのポイントになる大学や学部、キーパーソンなどを重点的におさえることにより、かなりの情報を入手することができる。また、学生の動きや自社の強み・弱みを把握する上で、前年度の内定者の活用は極めて重要である。既に内定を出している学生(あるいは入社した社員)から、応募者の立場から自社についての本音や改善点を語ってもらうことも有効である。
学生情報の収集と管理といった業務を行う場合、一定のマンパワーが必要となる。そこで、当該業務を採用代行会社にアウトソーシングし、自社スタッフは面接のみの中核業務だけに集中する、という方法を取る企業も多い。