新卒採用の実務(4)面接の進め方
採用活動の中でも、大きな位置づけを占めるのが「面接」だ。面接は、応募者との質疑応答を通して、経歴や書類などではうかがい知ることのできない特性を把握することを大きな目的としている。仕事内容や労働条件、社風、経営理念・方針、事業や仕事内容などを伝え、学生からの理解・共感を得ると同時に、入社後のミスマッチを起こさないための確認やすり合わせを行う大切な「場」である。このような重要な役割を持つ面接を、いかに適正かつ効率的に進めていけばいいのか、そのポイントを見ていこう。
(1)面接の手法
●「個人面接」「集団面接」「グループディスカッション」をうまく組み合わせる
面接には、「個人面接(応募者が一人)」「集団面接(応募者が二人以上)」「集団討議面接(応募者が二人以上で行うグループディスカッション)」という三つの手法がある。いずれにもメリットとデメリットがあるので、その特徴を活かしながらうまく組み合わせて実施することが重要である。
メリット | デメリット | |
個人面接 |
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集団面接 |
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集団討議面接 (グループディスカッション) |
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個人面接を行う際には、まず学生がリラックスできる雰囲気を作ること(明るい部屋で行う、飲み物を出す、穏やかな口調で話しかける、趣味・サークル活動など答えやすい質問からスタートするなど)を考え、緊張を解きほぐしてから本題に入るようにする。
集団面接は複数人で行うために、いくつか配慮するポイントがある。例えば、「応募者全員に関心がある(回答が可能な)話題を選ぶ」「応募者全員に対して平等に発言の機会を与える」「特定の者のみが長時間発言することのないようにする」といった対応は不可欠である。
集団討議面接では、司会者の進行の技量(ファシリテーション)に左右される要素が大きい。事前にファシリテーション研修(リハーサル)などを行った上で臨むことが望ましい。また、司会者とは別に評価者(観察者)を置き、司会者はファシリテーションに専念できるようにするほうがよいだろう。
(2)評価項目
●応募者の態度や回答内容から評価できる項目とする
面接は、優秀で自社にふさわしい要件を持った人材を採用する、という目的を達成するために実施するものである。そのため、どのような学生を採用すべきか(求める人物像)という観点から、事前に「評価項目」を策定しておく必要がある。
評価項目は、「経営理念」「事業方針」「社風(組織風土)」「業務内容」などを踏まえて策定するが、応募者一人に当てられる時間は限られている。そのため、複雑な評価項目ではなく、実際の面接で応募者の態度や回答内容から評価できるものにすることが大切である。そのような観点から、以下に、新卒採用において一般的とされる評価項目と、その観察・推測のポイントを示す。
知識 |
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理解力 |
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判断力 |
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思考力 |
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表現力 |
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対人折衝力 |
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指導力 |
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実行力 |
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態度 |
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積極性 |
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熱意 |
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協調性 |
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誠実さ |
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創造性 |
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責任感 |
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粘り強さ |
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快活さ |
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共感性 |
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国際性 |
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感性 |
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(3)質問事項
●「日常生活」「学生生活」「会社・仕事」に関して具体的に聞く
優秀で自社にふさわしい要件を持った人材を採用するという目的の下、面接で質問する事項は、学生が具体的に答えることができるという観点から、「日常生活」「学生生活」「会社・仕事」に関する内容とするのがよいと思われる。
学生にとって、日常生活に関する質問は答えやすい。緊張をときほぐすためのアイスブレークという意味でも、面接では日常生活に関する質問からスタートするといいだろう。学生生活に関しては、ポイントとなる(気になった)事項について、具体的に質問していき、本人の特性を見る。また、会社・仕事に関しては「働く目的」「志望する理由」などを重点的に聞くとともに、他に受験している会社について質問する。
- 【日常生活に関する質問事項】
- ・趣味、スポーツ
- ・よく見るテレビ番組、よく読む新聞の欄
- ・アルバイト経験の有無、その内容、目的
- ・海外(国内)旅行経験の有無、その内容、印象
- ・資格、免許の有無、その内容、目的
- ・長所、短所
- ・休日の過ごし方 など
- 【学生生活】
- ・今の大学を選んだ理由
- ・今の学部、学科、専攻を選んだ理由
- ・ゼミの所属の有無、選んだ理由
- ・クラブ、サークル活動の内容、選んだ理由
- ・外国語(英語)の習熟度、自信の程度
- ・学生生活で打ち込んだこと、得たこと など
- 【会社・仕事】
- ・働く目的、仕事に対する考え
- ・面接した会社を選んだ理由
- ・面接した会社の属する業界の将来性、成長性について
- ・希望する仕事内容(部門、職種)、成し遂げたいこと、その理由
- ・会社組織で働くことについて
- ・さまざまな立場の人と協力して働くことについて など
なお、「本人に責任のない事項の把握」「本来、個人の自由であるべき事項(思想信条に関わること)の把握」については、社会的差別につながるおそれがあるので、質問しないように心がける。
(4)面接の手順
●基本的な手順とステップを知り、適切な面接を実施する
面接は一定の手順をもって行われる。基本的な流れは、以下の通り。
- 【入室・挨拶】
- ・応募者は、お客様である。あわてて面接の場所を片付けることなどのないよう、予め準備しておく
- ・まず、応募者の緊張を和らげる話題を交えてから質問を始める
- 【基本的な質問からスタートする】
- ・履歴書を元に、これまでの経歴、応募動機など、基本的な質問からスタートする
- 【応募者に必要な情報を提供する】
- ・自社の経営理念、事業内容など会社概要について説明する
- ・次に、採用する職種の具体的な仕事内容を説明する
- 【応募者に質問する】
- ・「面接評価票(シート)」を元に、応募者に質問する
- ・受け答え、反応などを細かくチェックする
- 【応募者からの質問を受ける】
- ・何か不明点や疑問、不安がないかをたずねる
- ・合否をたずねられても、その場では答えない。連絡方法と時期を伝えるに止める
- 【退室】
- ・来社をねぎらう。応募者は顧客である、ということを忘れない
- 【判定】
- ・事前の「評価基準」に基づき、評価を行う
面接を実施する際、「評価基準」が面接担当者によって異なると、採用の公平性が保てなくなる。さらには、採用した社員の能力や意欲などにもバラつきが生じ、結果的に採用ミスへとつながるおそれがある。そういうことにならないよう、評価基準の統一と共有化を前もって行う必要がある。
- 事前に、どういう人材が望ましいのかを明確に定めておく(求める人材像を明確化する)
- 求める人材像が備えておく要件は何かを、具体化する(職務遂行上の適性と能力を判定するという観点に立ち、要件と評価する基準を決める)
- 要件を元に、簡潔な「面接基準票」(面接シート)を作成する
- 面接を担当する関係者が、評価基準の統一・共有化をできるようにする(刷り合わせ会議・研修、模擬面接を行う)
面接は「一次面接」(採用担当者、現場社員)、「二次面接」(人事部門の役職者、現場の責任者)、そして「三次(最終)面接」(社長、役員)の三つのステップを踏んで行われることが多い。それぞれの段階で見るべきポイント、判断の基準が変わってくるので、面接者はそのことを十分に意識し、面接に臨むことである。
- 【一次面接】
- 一次面接は、書類選考(筆記試験)を通過した学生に対して、人事部門の担当者(現場の社員が同席することも多い)が面接を行う。面接方法としては、個人面接、集団面接が一般的である。人数が多い場合、集団討議面接(グループディスカッション)を行うこともある。応募者からすれば、志望する会社での最初の面接であるため、緊張していることが予想される。面接担当者は、学生が答えやすい質問から始めるなど、相手の緊張感を和らげながら基本的な事項について確認し、二次面接に上げるかどうかを判定する。
- 【二次面接】
- 一次面接を合格した学生に対して、人事部門の役職者(現場の責任者が同席することも多い)が二次面接を行う。面接方法としては、個人面接に絞る企業が多いが、集団面接、集団討議面接などで、応募者間のリーダーシップや協調性などを見極める企業もある。二次面接は事務レベルにおける採用選考の最終段階となり、ここで内定者が事実上決定する。しかし、内定を出しても辞退者が出るため、これまでの内定辞退率等を勘案し、二次面接での合格者数を決めるのが現実的である。
- 【三次(最終)面接】
- 人事部門が採用基準に照らし合わせて採用すべき人物とした学生に対して、経営の最高責任者である社長・役員が面接を行う。ここでは、経営理念への理解・共感があるか、直近の実務、将来的な事業遂行を任せられる人物かどうかを社長・役員の目線で評価を行い、採用するかどうかを最終的に決定する。
(5)面接の限界
●人が人を評価することの限界を心得る
面接は採用選考における重要な手段だが、応募者の外見や雰囲気、話術などに惑わされて「実態」を見損なうことがある。事実、第一印象が良いと即断してしまうことも少なくない。また、人それぞれに好みや先入観があり、面接担当者がその時の気分で相手を評価してしまうこともあるだろう。
面接では、「感情」を持った人間が評価するため、いろいろと限界がある。その限界をよく知った上で、実施することが大切である。また、評価ミスを避けるには、評価基準の共有化・統一を図り、面接を何回かに分けて実施するといった対応が必要である。
- 【面接の限界】
- ・面接者の主観や好き嫌いの偏りによって、正確な判断が妨げられることがある
- ・面接者が複数の場合、どうしても評価に差が生じる
- ・応募者が多数の場合だと、すべての人物に対して一律で丁寧な面接ができにくい
- ・時間に制限があるため、一時的に表れた応募者の態度を絶対的な特徴と考えやすい
- 【評価ミスを避けるために】
- ・二人以上の社員によって面接を行う
- ・評価が分かれた場合には、他の社員による面接を行う
- ・上位者による面接の機会をセッティングし、上位者の判断に委ねる
- ・多数決で採否を決定する
(6)面接環境と面接官の資質・心得
●面接官を適切に選定し、研修を行う
面接を適切に実施ためには、静かで、明るく、かつ落ち着いた雰囲気の下で行うことである。最低限、面接のための「別室」を用意し、社員が行き来したり、近くに置かれた電話が鳴ったりすることのないようにする。
また、採用面接においては、面接官の持つ意味が非常に大きい。しかし、実際の面接では、面接の専門家だけが担当するとは限らない。普段は自分の担当業務を行い、採用選考の時に全社的な対応が必要ということで駆り出されるケースが多いのが実情だろう。その意味からも、採用選考においては面接官の選出が大きなカギとなる。面接官を選定するに際のポイントは、以下の通り。
- 社内でも有能とされる人物を起用する。応募者にとっては、面接で会った人の魅力がその企業の魅力となるからだ。
- 応募者の年代に合わせた人材を加える。年齢の開きによる微妙な常識や職業観の差が、不当な評価につながることがある。
- 専門職の採用には、当該部門の責任者を加える。求める知識・技術を持っているかどうかは、その部門の人間が一番よく分かるからだ。職場環境に馴染めるかどうかも、現場責任者の判断が最適と言えるだろう。
面接という場面で、応募者と直接向き合う面接官は、与える影響力の大きさからも的確な人物要件を備えているかどうかが重要である。応募してきた学生に対して、真摯な態度をもって対応することを忘れてはならない。面接する側が横柄な態度を取っていると、面接される側は萎縮してしまうことだろう。持っている能力・スキルや長所を見せることなく終わってしまい、不信感を抱かせる結果にもなりかねない。そのような点から、面接官には最低限、以下のような要件を備え、面接に当たっての心得を有していることが求められる。
- 【面接官に求められる要件】
- ・自社の経営方針やビジョンをよく理解している
- ・業界の事業や職務全般に通じている
- ・人間関係に通じていて、精神的にバランスが取れている
- ・常に冷静であり、客観的な観察ができる
- ・他人に対して親切で、思いやりがある
- ・要領を得ない質問でも、忍耐強く聞く姿勢を持っている
- ・秘密を守ることができる
- 【面接に当たっての心得】
- ・事実に即して、行動などを聞く
- ・話しやすい雰囲気作り、答やすい質問設定を心がける
- ・企業(面接)側から、素直に話を切り出す
- ・応募者から会社への要望、質問を心おきなく聞く
- ・採用してやるという“上から目線”を見せないよう、態度、言動、表情を常に気を付ける