新卒採用の実務(6)配属フォローと定着管理
入社後3年で3割が辞めるなど、新入社員の定着率悪化が問題となっている中、入社後の職場配属とその後のフォローのあり方が注目されている。近年の新入社員を中心とした若年層の定着率の悪化には、職場配属の仕方と配属後のフォローに大きな原因があると、改めて認識されているのだ。昨今の売り手市場にあって、せっかく採用した新入社員が、配属後のミスマッチによって離職していくような事態は避けなければならない。ここでは、新入社員の配属をどのように考え、対応していけばいいのかを見ていこう。
(1)新入社員配属の考え方
●新入社員の現状を的確に把握し、タイミングを見計らった配属フォローを行う
入社前までは内定者のことに大変気をつかっていても、入社した途端、手のひらを返したようにフォローを行わなくなる企業がある。一方で、即戦力化を意識するあまり、必要以上に厳しく指導する企業もある。このように入社前と入社後の対応の落差(ギャップ)が大きいと、新入社員にショックを与えることになり、定着率悪化へとつながりかねない。
職場に配属する際も新入社員の希望を全く無視し、一方的に配属してしまっているケースは多い。しかも配属後はほとんど職場に任せっきりで、人事がフォローは行わないということもある。配属後のフォローに関しては、OJTの中で現場の上司が行っていくという考え方もあるので、人事の実務として考えれば間違っているわけではないものの、それは新入社員フォローの一つの側面に過ぎない。
学生から社会人になったばかりの新入社員には、「社会人としての物事の考え方」や「会社の規則、決まり」を教えたり、「職場での人間関係」や「自社の中で、果たしてやっていけるのか」といった悩みを解決するためにサポートしたりするなど、幅広い意味でのフォローが必要。いずれにしても、職場の上司だけによる新入社員フォローには限界があるのは言うまでもない。
多くの新入社員は、さまざまな悩みや不全感を抱きながら会社生活をスタートさせている。会社はこうした新入社員の現状を的確に把握する必要がある。例えば、仕事に関する理解の進捗状況を確認する、日々の仕事上の不満を解消させる場を与える、同期社員との再会によるリフレッシュの機会を提供するなど、タイミングを見計らった配属後のフォローが欠かせない。適切な配属フォローが新入社員の定着に大きく影響するからだ。さらには、新入社員の定着の促進を会社の制度や仕組みの中に組み込み、個別に対策を打つことも、検討すべきだと思われる。
(2)新入社員配属の視点
●本人の意向を聞く場を設け、適性を把握する
配属の仕方次第で、その後の新入社員のモラールや仕事への取り組み姿勢に大きな差が出てくる。この問題が拡大すると、入社後、即退職という最悪の事態を招きかねない。会社は、当初の要員計画に基づいて部署配属を行っているが、新入社員の配属に当たっては、先に述べたような事情を考慮した上で、下記のような視点から配属を検討する必要がある。
- 【配属面談など、本人の意向を聞く場の設定】
- 募集時や内定時に職種・配属部署を明示していても、学生は企業の事情にうといこともあり、「ひょっとしたら他の職種や部署に移れるのでは」と心の片隅で考えていることがある。一方、会社側は事前に職種・配属部署を明示したのだから特に問題ないと考え、本人の思いや意向を聞くことなく、一方的に配属してしまいがちである。
本人にしてみれば、自分の思いに聞く耳を持たなかった(無視された)ことに対する不満や不信を抱くことになり、結果として、モラールダウンや離職へとつながってしまう。こうした問題は職種・配属部署を明示した場合でも起こることだが、職種や配属先も未定のままで(または明示せず)採用した場合は、より問題が顕在化することになる。
新入社員のこのような思いを考慮し、一つの“けじめ”“本人への納得性”といった観点から、配属面談などで本人の意向をいったん受け止める仕組みを作ることが必要だ。そうすれば、新入社員も自分の気持ちを聞いてくれたと感じることができる。そして、このような場を設定することによって、新入社員の定着性を高め、モラールを維持していくことにつながる。
- 【本人の適性の把握】
- 配属は、本人の適性を十分に見据えた上で行わなければならない。しかし、本人の適性は短時間の面談だけでは、明確に把握できるものではない。「適性診断シート」などを活用することで、適性を把握するとよいだろう。あるいは一定期間「仮配属」を行い、その間にいくつかの部署を経験させることで本人の適性を調査・把握し、その上で正式な配属先を決定するという方法もある。
(3)配属後の定期的フォロー
●定期的にフォローする仕組みを作り上げることが、育成・定着につながる
新入社員を各部署に配属した後、特に何もフォローすることなく、各部署に育成を任せてしまっているケースは少なくない。その際、各部署での育成方法や育成に対する考え方が統一的なものとして、きちんと仕組みになっていることはまれである。多くは、各部署の独自のやり方で行われている。その結果、各部署間の育成上の格差(上司、同僚の認識の格差)が、そのまま新入社員の定着の格差につながっている。
このような問題を回避するためにも、配属後は定期的に新入社員をフォローする仕組みを作り上げなければならない。それが、大きな努力をして採用した大切な人材を将来に渡って育成・定着させていく第一歩となる。配属後の定期的なフォローの効果的な取り組みには、以下のようなものがある。
入社後の合宿研修 | 入社後の新入社員合宿研修を、会社としての教育行事と位置付け、全社員を対象に合宿でフォロー研修を行うというもの。ここでの狙いは、各人が配属後に抱いている悩みを共有化させることにより、「自分だけが悩んでいるわけではない」ことを認識させ、「ガス抜き」させることである。それと同時に、同期意識をさらに強くさせることで、一体感の醸成を図る。 |
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定期カウンセリング (ヒアリング) |
人事・採用担当部署が中心となって、配属から一定期間が経過したら、(3ヵ月後もしくは6ヵ月後)に配属先を回り、新入社員に対してカウンセリング(ヒアリング)を行うというもの。傾聴によって本人の悩みをうまく引き出し、その後のモチベーション向上につなげることが狙いである。 |
(4)定着管理に向けて
●双方向のコミュニケーション、上司のマネジメント、適性配属がポイント
若年労働力人口の構造的な減少と、若年層を中心とした就業意識の大きな変化の中で、その必要性が叫ばれているのが定着管理である。大変な労力とコストを費やして採用した新入社員が、一人前の戦力として十分に育つ前に離職することは、大きな損失となるからだ。このような問題意識の下、各企業では新入社員の定着を促進していくため、さまざまな施策を打ち出している。近年の定着管理の基本的な考え方、方向性は以下のように分類できる。
- 会社と新入社員との双方向コミュニケーションを常に行うことにより、新入社員の不安や悩みを解消し、定着に結び付ける。
- 配属先の上司の部下(新入社員)に対するマネジメント(部下指導)のあり方を正していくことにより、定着に結び付ける。
- 一定期間を要し、本人の適性を把握した上で部署配属を行い、定着に結び付ける。
(5)入社後教育のあり方
●「思考・行動様式」「教育ニーズ・課題」を捉え、フィードバックしていく
基礎的な能力に大きな差のない新入社員でも、入社後半年、1年と経つに従って差が現れ始める。その原因は、入社後に配属された職場の上司との関係性や、新入社員教育などの違い。この時期にきちんとした動機付けが行われているかどうかは、大変重要だ。 その際に意識しなければならないのは、会社からの一方的な押し付けでは十分な効果を期待できないということ。近年の新入社員は、自分が納得しなければ動かない傾向がある。「なぜ、それを行う必要があるのか」「なぜ、これをしてはいけないのか」など、社会人としての経験を持つ社員なら当然と感じることでも、理解できないことが少なくない。だからこそ、新入社員に対しては丁寧に、根気よく説明していかなければならない。教育担当者には新入社員の「思考・行動様式」や「教育ニーズ・課題」を的確にとらえ、それを教育カリキュラムへとフィードバックしていくことが求められる。 新入社員に自信を付けさせるためには、初期の段階で「基本行動」をマスターさせるプログラムを盛り込んでいく必要がある。そのためには、以下のような視点や支援が欠かせない。
- 意識の転換(学生から社会人への切り替え)
- 会社の理念・ビジョンの浸透
- 社会人の常識・規則の理解
- 同期意識の高揚、一体化
- ロールプレイングの実施
- 実務の習得
- 自立意識の植え付け
- 職場全体のサポート
- 相談相手の存在 など