変革を迫られる日本の新卒採用[4/5ページ]
4)誰が新卒学生を教育するのか
---日本的な新卒一括採用が、日本経済の置かれている状況にあわなくなっているということはよく分かりました。しかし、企業が新入社員の育成能力を低下させている今、学生はどうやって即戦力人材になればいいのでしょうか。
現在の新卒採用では、大学教育の成果がほとんど重視されていませんが、本来は大学で学んだことを就職後に活かせる方が、企業にとっても良いはずです。もちろん、大学が企業の研修機関のようになるべきだというわけではありません。単なる実践的スキルだけでなく、生産的な批判や改善を行えるメタレベルの知識や思考力をつけることも含めて、大学が教育内容と卒業後の仕事との連動性を学生に分かりやすく示し、企業も採用選考時に学生が大学で何を学び、自ら追究したのか、また、その成果としての成績はどうだったのかを重視するようになれば、学生は勉強せざるをえない状況になるのではないでしょうか。実際、海外の大学生は日本の学生に比べてよく勉強するといわれますが、それは今挙げたような条件があるからなのです。
もう一つはインターンシップの活用です。日本のインターンシップは期間が短く、選考のプロセスに位置づけられていることが多いわけですが、海外、特に欧米ではインターンシップを通じて初歩的な実務経験を積むことが重要視されています。一定期間以上インターンとして働けば、その人材はすでに、まったくの未経験者ではなくなっているわけです。
---現在、就職活動の長期化による弊害が指摘されていますが、長期のインターンシップは日本でも可能でしょうか。
そのためには、採用時期を見直す必要があると思います。欧米では、大学在学中に就職活動を行うケースが少なく、大半は卒業の直前もしくは卒業後に仕事探しを始めます。ですから、日本のようにいったん既卒者になってしまうと極端に不利になるということはありません。
現状では、早期から採用に取り組まないと良い人材を競合他社に採られてしまうという考え方が主流ですが、各社が横並びで採用を前倒しにした結果、結局はコストと手間だけが増え、苦労して採用した人材もミスマッチだったという状況になっているのではないでしょうか。
学生にはたしかに「早く決めて安心したい」という気持ちもありますが、きちんとその会社や仕事の魅力を伝えることができれば、後からいくらでも良い人材は採れるはずです。実際、早期に内定を出しても、「もっと行きたい会社があったから」という理由で内定を辞退されるケースは数え切れません。そう考えると、早い方が採用に有利というのは一種の神話ではないかと私は思っています。学生に時間の余裕を与えて、大学で十分に力をつけ、自分が目指す業種や企業を見定めさせた上で採用する、つまり、学生がもっと成熟した段階で採用したほうが、企業にとって有益であるという考え方のほうが妥当です。
※欧州対象国はスウェーデンを除く各国
出所:労働政策研究・研修機構(旧日本労働研究機構)「日本の大学と職業――高等教育と職業に関する12カ国比較調査結果」平成13年3月