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新卒採用をめぐる最新状況

これまで、日本における新卒採用の歴史を振り返ってきたが、ここからは、現代の新卒採用の状況を、「ミスマッチ」「非効率」「社会への影響」という3つのキーワードを使って分析していきたい。

1)「ミスマッチ」はなぜ生まれるのか

欲しい人材が十分に採れない」、あるいは「採ってみたが物足りない」「せっかく採用したのに数年以内で離職してしまった」といった声が、多くの企業から聞かれる。企業と学生の出会いがうまくいかない「ミスマッチ」。それが生まれる理由には、以下のようなものがある。

(A)企業の欲しい人材の変化

バブル崩壊以降、各企業の新卒採用は「量から質へ」と大きく転換し、これが「厳選採用」という言葉となって定着している。質を重視するがゆえに、バブル期以前と比較すると、新卒採用時のハードルが上がった状態になっている。この背景には、コスト削減によって企業の「人材育成機能」が弱められたという事情がある。また、時間的にも早く結果を出すことが求められるようになった。まっさらな人材を採用して、入社後にじっくり育てるという新卒一括採用の前提が崩れているのである。そのため、即戦力になりうる優秀な人材を求める企業が増えているのだ。

(B)大学生の増加と質の変化

1990年代以降、大学の定員の拡大が進み、大学進学率は2009年に50%を超えた。この20年間で大学・大学院卒の就職希望者数は約1.5倍に増加している。その一方で少子化による18歳人口の減少が続いており、学生数を確保したい各大学は、推薦入学やAO入試などに力を入れるようになった。一般の入学選抜試験を経た学生が5割に満たない大学も、決して珍しくない。また、現在の大学生は、いわゆる「ゆとり教育世代」であり、基礎学力の不足を指摘する声もある。 つまり、大学生の数は増えたが、その質は企業が期待するほどには上がっていない、むしろばらつきが出てきているといえるだろう。

■大学・短期大学への入学志願率の推移
大学・短期大学への入学志願率の推移

出所:文部科学省 平成22年「学校基本調査」より

※参考:読売新聞社の「大学の実力」調査によると、09年春の入試では国公立大が筆記試験による一般入試入学者が81%を占めたのに対し、私立大は一般入試が44%、AO・推薦などによる合格者が46%と一般入試組を上回った(無回答・非公表10%)。(文科省調査では08年春の一般入試合格者比率は国立が84%、私立49%)。一般入試の入学者比率が10~20%台という大学も少なくない。 https://hclab.jp/opinion/analyse/post-12.php

(C)採用の早期化

採用時期が早期化したことによって、「大学で何を学んだか、何を身につけたか」を選考材料にできないという状況が生まれている。もともと日本型一括採用は、職種などを特定せずに、学生の人柄や地頭の良さなどの、いわゆるポテンシャルを重視した選考を行うのが特色である。しかし、採用活動が大学3年からスタートするようになり、そのポテンシャルを見極める材料も限られたものになってしまった。

また、学生の方でも「語ることがない」状態のため、面接では対策マニュアル本にあるような受け答えが中心になってしまう。これが企業側には「どうも物足りない」印象を与えるとともに、学生の本音が伝わらず、さらにミスマッチを生む原因となっている。

(D)学生の情報不足

学生の志望が大手企業に集中することで、十分な母集団を形成できている企業とそうでない企業とに二極化している。学生が大企業に偏る理由は、「不況なので安定している大手が良いから」、あるいは「マスコミなどを通じて社名や商品をよく知っているから」といったものが多いが、一方でB to Bの優良企業などは見逃しており、情報不足、研究不足が指摘されている。また、それは企業側が選考過程で感じる「志望動機の弱さ」にもつながっている。

こうした状況については、学生の就業観などを養うキャリア教育のあり方をはじめ、大学やそれに先立つ中学・高校で職業についてどういった教育を行うべきかという議論があるほか、保護者の意見に影響を受けやすい世代特性をあげる声もある。

(E)面接中心の選考方法

エントリーシートや適性試験などのさまざまな選考方法の中でも、もっとも重視されているのが面接である。しかし、面接では一定のコミュニケーション能力は分かるが、それ以外の課題解決能力や持続力といったビジネスに必要なその他の能力は分かりにくい。以前は、入社後に時間をかけて育成することが前提だったので、それで良かったのかもしれないが、現在の「即戦力になるべく近い人材」を求めている状況では、面接中心の選考方法もまた、ミスマッチを生む一因と考えられている。

(F)日本型雇用慣行の崩壊

入社したが、考えていた仕事とは違っていた…。そんな理由で早期に退職してしまう層が増えている。しかし、このような考え方をする社員は、昔からいくらでもいたはずである。バブル期以前にそういった理由で離職する人が少なかったのは、かつての日本企業に、終身雇用や年功序列型賃金を保証し、時間をかけて人材育成を行う余裕があったからだ。しかし、現在の厳しい国際競争にさらされている企業は、そうした日本型雇用慣行を維持できなくなっている。そのため、「長く働いても良いことがないなら、若いうちにリセットしたい」と考える人材の離職が増えているのだ。つまり、かつては大きな問題にならなかった「潜在的ミスマッチ」が、日本型雇用慣行の崩壊とともに顕在化してきたといえる。 もちろん、日本において転職や中途採用が一般的になってきたという社会環境の変化も影響しているだろう。

■新卒新入社員の離職率
新卒新入社員の離職率

出所:厚生労働省職業安定局集計「新規学校卒業就職者の就職離職状況調査」

2)新卒採用の「非効率」

現状では、「良い人材を確保するためにはこれくらいのコストや手間がかかるのはやむをえない」と考えている企業が大多数だろうが、逆に「これだけコストや手間をかけているのにミスマッチが起こっている」ということは、そろそろ違う方法を考えるべき時が来ているともいえる。新卒採用が非効率になっている理由には、以下のようなものが考えられる。

(A)業種・職種に連動しない採用基準

日本型一括採用では、業種や採用後の職務内容とは関係なく、どの企業も「ポテンシャルの高い人材」「コミュニケーション能力のある人材」といった同じような基準で選考を行っている。極端にいえば新卒採用を行うすべての企業が競合になってしまっているのだ。その結果、一部の「優秀な学生」に内定が集中し、辞退されるという非効率が生まれている。 また、大学での専門教育の成果と入社後の業務の連動性が無視され、学生の勉強へのモチベーションを奪っているという指摘もある。優秀な人材を求める企業の思いに反して、勉強しない学生を増やす原因になっているというのである。

(B)長期にわたる採用活動

1997年に就職協定が廃止されてから、大企業を中心に採用の早期化が顕著になった。しかし、一部の優秀な学生に内定が集中してしまうため、採用活動を早く始めても早く終わるとは限らない。内定を出してから入社までの期間が長くなるので、その間のフォローにも力を割かなくてはならない。また、最終的に辞退に至った場合には、再募集をしなければならないこともある。

(C)インターネットの普及

就職サイトを利用した採用活動には、さまざまなメリットがある。しかし、本来なら効率的なはずが、逆に採用活動の煩雑化を招いている面もある。 たとえば、比較的簡単にエントリーできるので、学生1人当たりの応募社数が大幅に増えたこと。企業は大量の応募者を絞り込むために、選考回数を増やすなどの対応を余儀なくされているが、学生側はそれによって危機感を募らせ、さらに多くの企業に応募するという悪循環を生んでしまっている。多くの企業に応募するということは、当然、あまり研究していない企業も含まれることになる。選択基準はどうしても知名度のある企業ということになり、人気企業(大企業)へのいっそうの集中を招く。もちろん、これはミスマッチの原因ともなる。

インターネットで企業説明会などの参加者を集めると、数時間(人気企業の場合は数分間)ですべての枠が埋まることもある。しかし、単に枠を押さえているだけなので、当日になって欠席者が多数出ることもある。一方では、本当にその企業を志望している学生が説明会に参加できなくなるなど、企業・学生の双方にとって機会の損失といえるケースも増えている。

(D)選考プロセスの複雑化

大量の応募者の中から質を重視した採用を行うために、中心となる面接以外にもエントリーシート、適性試験、各種テスト、小論文、グループセッションなど、さまざまな選考方法で候補者の絞り込みを進める必要が生じている。もちろん、面接自体も回数が増えている。企業にとっては手間やコストの負担が増えるが、こうした手法をとっている企業でも、ミスマッチは防げていないといわれる。

3)社会への影響

新卒採用に関わる「ミスマッチ」「非効率」は、日本全体で考えると、非常に大きな社会的損失を生んでいることになる。この損失が回りまわって、日本経済を停滞させている一つの理由になっているといってもあながち大げさではないだろう。社会への影響としては、以下のような問題として波及していることも見ておきたい。

(A)既卒者の就職が非常に困難

いったん就職活動に失敗して「既卒者」となってしまった場合、新卒者以上に厳しい状況に置かれてしまうのが現状である。また、比較的就職しやすい「非正規雇用」の職を選択した場合、今度は正規雇用の職への移行が非常に困難だといわれている。こういった事態が、若年層の失業率上昇や所得の伸び悩みの一因となっており、景気浮揚のブレーキにもなっている。

また、採用人数などは景気によって急変動するため、1年違うだけで「売り手市場」から「氷河期」へと一気に変わってしまうことも珍しくない。それ自体は、企業活動の結果なのでやむをえないが、問題は氷河期の年に卒業した人に再挑戦のチャンスが与えられないことだ。これが世代間の不公平感を生んでいるともいわれる。

■大学(学部)卒業者の就職者数及び就職率等の推移
新卒新入社員の離職率

出所:文部科学省 平成22年「学校基本調査」より

(B)大学教育の形骸化、学生の負担増

3年生の段階から就職活動が始まり、長い場合にはそれが卒業直前まで続くといった「早期化・長期化」によって、大学生活の後半で十分に勉強できなくなっている。近年、企業側はますます「能力の高い人材」を求めるようになっているにもかかわらず、就職活動がその能力を磨く時間を奪っているという皮肉な状況に陥っているのだ。

特に、企業が求める「グローバル人材」には留学経験などが欠かせないが、留学すると就職活動に出遅れるという理由で、日本人の留学生が急減しているという事実もある。また、面接を数回にわたって行うなど煩雑化、複雑化した採用活動は、学生にも大きな時間的、経済的な負担を強いている。特に地方在住の学生は圧倒的に不利になり、不公平感を生むとともに、企業としても優秀な人材を取りこぼしている可能性がある。

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企画・編集:『日本の人事部』編集部

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