ニッポンの「雇用」と「採用」のあるべき姿とは?[4/4ページ]
~日本企業の構造から雇用問題と新卒採用について考える
海老原 嗣生さん
中小企業に求められる新卒採用活動とは
--その他に、新卒採用において改善していくべきことはありますか。
採用活動を春休みの期間に集中することです。現在は4月からの選考を要請していますが、それを前倒しにするのです。3年生の春休みの間、つまり2月から3月の間に説明会から応募・選考までを全てパッケージ化してやり切るようにしてほしい。何より、この時期に採用を行えば、学業を阻害することはありません。
これが実現すれば、かなりの改革になると思います。その結果どうなるかと言うと、3年生の春に落ち続けた学生が、4年生の同時期にもう一度受験することができます。つまり、2度のチャンスが与えられるわけです。その際、企業には選択権があって、4年生の春に受けた学生をその年の新卒として採用することもできるし、1年間の猶予を置くこともできるようにするということです。景気緩衝材ともなるでしょう。
ところが、これを「通年採用」としてしまうと、学生にいつまでも大企業への夢を与え続けることになってしまいます。すると、中小企業にはなかなか目が向きません。
―― 中小企業の人材不足は明らかですが、依然として新卒学生を採用することが厳しい状況です。学生の目を中小企業に向かせるにはどうすればいいでしょうか。
学生が目を向けてくれるような努力をすることです。しかし、中小企業にはそういった努力が足りないと思います。優秀な学生を採用できている中小企業もありますが、そういう企業は自社の論理ではなく、学生に付き合ってあげる、助けてあげるという論理に立って採用活動をしています。
例えば、大学の中に積極的に入っていき、大学生のための「模擬面接会」を自社の社長と人事担当者で開催するなど。まだ面接慣れしていない学生に対して模擬面接を行うことで、学生と知り合い、仲良くなるのです。あるいは、自社の取引先に有名企業があれば、その企業を受けたい人のためのセミナーを開催したり、普通では知り得ない情報を教えてあげたりすることです。これらは全て、学生を資するためにやることです。さらに進んで、営業に同行させて彼の志望企業の責任者クラスの人に会わせてあげる、というようなことも行うのです。でも、大手は難しいから、9割がた落ちてしまうのですね。そんなとき、このように学生のために献身的に尽くしていたら、あなたの企業に目を向け、就職を意識していくことになるでしょう。
こうしたことを全く行わずに、自社や業界事情について説明するばかりで、ぜひウチに来てほしいと言っても、大企業に目が向いている状態の学生を採用することは困難です。相手の立場に立ち、相手が嬉しい、助かると思うようなことを行っていくことが大切なのです。
いろいろと手助けをしてあげた学生が、大手企業に入ることが叶わなかった時に頼るのはいったい誰でしょうか。それは、それまでいろいろと面倒を見てくれた企業に他なりません。そこで、初めて自社のことを説明して、ウチに来ないかという話をするのです。
要は自らそのような対応を仕掛けていかない限り、知名度などで劣る中小企業が欲しい人材を採用することは難しいということです。それなのに、多くの中小企業は、大企業と同じことをしています。求人サイトに掲載し、お金がない場合にはハローワークのサイトに広告を出して、その後で会社説明会を開催する。さらに履歴書とエントリーシートと面接で採用する、といった大企業が行う採用の取り組みをまねているだけなのです。これではなかなか良い人材を採用できません。
大企業はなぜこのようなやり方をするのかと言えば、大量人数に対応するための導線として、一番効率的だからです。そもそも応募者が少ない中小企業が、大企業と同じようなやり方をしては、採れる人も採れません。
常識となっている採用プロセスでも、本当に効果があるのかどうかについて、きちんと考えなければいけません。5月23日に開催される「HRカンファレンス2012-春-」の新卒採用に関するパネルセッションでも、参加者の皆さんと共に考えていきたいと思っています。
―― 本日はお忙しい中、雇用問題と新卒採用について貴重なご意見をうかがうことができました。ありがとうございました。
(取材は2012年3月16日、東京中央区 ニッチモにて)