就活生・採用担当者に聞いた「就活ブラック企業」
ディスコ 調査コラム(2014年4月発行)
近年、「ブラック企業」の問題がクローズアップされている。厚生労働省が「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」について集中的な監督指導を実施するなど社会の大きな課題となっている。しかし「ブラック企業」について確たる定義はなく、意味も曖昧なままに言葉の露出が増え、学生たちの不安を増大する面もある。そこで、学生と企業の採用担当者を対象に「ブラック企業についての考え」に関するアンケートを実施し、集計データの比較を行った。
《調査概要》
[1] 自社をブラック企業だと思う学生の存在について/企業調査
企業の採用担当者に「自社をブラック企業だと思う就活生」がいると思うかを尋ねたところ、「大勢いると思う」が1.9%、「大勢ではないが一定数はいると思う」が20.6%、「ほとんどいない(ごく一部)」が38.4%となった。2 割強は「自社をブラック企業と思う学生」がいる可能性を感じていた。
[2] 「ブラック企業」だと思う条件/企業調査・学生調査
「ブラック企業」には明確な定義がないため、どのような企業が該当するかは個人の主観による面も大きい。そこで「『ブラック企業』だと思う条件」について学生と企業の採用担当者双方に聞き、調査データの比較を行った。
数値が最も高かったのは採用担当者、学生とも「残業代が支払われない」で採用担当者の77.9%、学生の75.0%が選択した。
サービス残業や割増賃金不払いといった問題への意識には企業、学生とも一致しているようだ。一方、「募集条件と実働が著しく異なる」と「セクハラ、パワハラがある」は、採用担当者の7 割以上が選択したのに対し、学生では5 割にとどまり、大きな差が表れた。これらは法令順守の観点からも問題とされる項目であるが、学生側は知識不足もあってか採用担当者の結果よりも20 ポイント近く低かった。
「給与金額が低すぎる」「残業が多い」「有給休暇を取りづらい風土がある」などは、逆に学生のほうが採用担当者より多く選択している。全選択肢中で最も差が大きかったのは「給与金額が低すぎる」で採用担当者24.2%に対し学生では48.3%となった。
[3] 「ブラック企業」になると思う目安/企業調査・学生調査
具体的にどの程度だったら『ブラック企業』になると思うのか。「離職率」「給与」「残業時間」「有休取得日数」の4 項目について、学生・採用担当者の双方に目安となる数字を尋ねた。
「離職率」については、「大卒新卒者の入社後3年の離職率」が何割を超えたらブラック企業になると思うかを尋ねた。採用担当者の回答で最も多かったのは「5 割超」で、53.3%と半数を超え集中している。一方、学生では、「3 割超」が35.8%で最も多く、「5 割超」は25.7%で2 番目だった。採用担当者よりも低い数字に分布しており、基準が厳しい。
厚生労働省が発表した最新の入社3年目の離職率(2010年3月卒業者)は31.0%であるが、この平均値をブラック企業の目安と考える学生が多いようだ。
「給与」については、「30歳の大卒総合職の年収」で回答してもらい、分布を示した。ボリュームゾーンは採用担当者・学生とも「300~400 万円未満」で人事担当者48.0%、学生39.0%だった。これより高額の「400~500 万円未満」をブラック企業の目安として選択した回答者も学生では19.2%おり、人事担当者の7.6%を大きく上回る。さらに「500~600 万円未満」「600~700 万円未満」「700 万円以上」を選択した学生も合わせて11.1%存在する。
「残業時間」については、「1 カ月の残業時間」が何時間を超えたらブラック企業になると思うかを尋ね、分布を出した。採用担当者で最も多いのは「100~120 時間未満」で、34.4%と3 人に1 人が回答。これに対し、学生では「40~60 時間未満」が最多で認識にかなりの差が見られる。また採用担当者では1.6%しか選択していない「20~40 時間未満」について、学生では17.4%が選択している点も特徴的。厚生労働省の通達に基づく「過労死ライン」(残業時間の月平均80 時間)であるが、採用担当者の60.8%がそれを上回る数値を回答した。
「年間の有給休暇取得日数」について目安を尋ねると、採用担当者では「0~5 日未満」が最も多く、54.6%。学生では「5~10日未満」を回答した者が最多で43.0%だった。また、「10~15 日未満」を回答した採用担当者は12.5%にとどまるが、学生では30.1%と差が大きい。ちなみに厚生労働省の発表では平成25 年1 月1日現在の年次有給休暇取得日数は労働者の平均で8.6 日だった。
「ブラック企業になると思う目安」は全般的に学生が自分の将来の待遇を高くイメージする様子がうかがえ、採用担当者より広い範囲でブラック企業を認識する懸念が浮かび上がる結果となった。「これでは大半の企業がブラック企業になってしまう・・・」という採用担当者の声が聞こえてきそうだ。
[4] ブラック企業だと思う企業への就活予定/学生調査
自分が「ブラック企業」だと思う企業の就職試験を受けるかどうか、学生にその意向を尋ねた。
全体の62.5%の学生は「受験しない」と回答したが、「場合によっては受験する」と回答した学生も32.2%存在する。ブラック企業の定義が明確でないのと同様に、避ける度合いも個人によって異なるということだろう。また、「他の会社と同じように受験する」という学生も5.3%いる。理由を聞くと「実際に社員と話してみなければわからない」という意見もあった。この点は採用担当者からも「曖昧な情報が交錯する現状への懸念」とともに「自分の目でしっかりと企業を見てほしい」という意見が多く寄せられた。
≪学生コメント≫
■「他の企業と同じように受ける」理由
○実際に社員に会って話をしてみないと本当にブラック企業なのかわからないから。 <文系女子>
○どの企業も何かしらの巷で言われるブラック的側面があると思う。気にしていたら企業選びの選択肢が減ってしまう。 <文系男子>
○面接やグループワークなどの練習になると思うから。 <理系女子>
■「場合によっては受ける」理由
○どこも就職先が決まらなかったら仕方なく。 <文系男子>
○持ち駒は多いほうが良いから。 <文系女子>
○ブラックでないと思う企業を優先して就職活動を進めるつもりだが、ブラックだと思う企業についても話を聞いたりして魅力を感じたりすることがあれば受験するかもしれない。 <文系男子>
○覚悟の上で就職したいと思った場合、受ける。 <理系男子>
■「受けない」理由
○自分がブラック企業だと思っている企業に就職しても、満足に仕事はできないと思うから。<文系男子>
○いくらやりがいのある仕事でも、賃金に見合わない労働環境の中では働く理由が見失われそうな気がするため。 <理系男子>
○ブラック企業に入社することにより、人生を破綻させたくはないからです。 <文系女子>
≪企業コメント≫
■ブラック企業の問題に関する採用担当者の意見
○マスメディアがブラック企業について過剰に煽り立てているため、就活生は疑心暗鬼になって企業を見つめていると思います。 <建設・住宅・不動産/1,000~4,999人>
○インターネットの口コミサイトなどでしっかりと情報収集し、会社の良し悪しを確認してから就職先を決めて欲しいと思います。 <サービス業/300~999人>
○ネットや友人からの情報で「あそこはブラック企業だ」と決めつける学生は、恐らくどんないい会社に入っても、不平不満を言う学生である。 <商社/300~999人>
○厳しい=ブラックという風潮には疑問を感じるが、実態を外部から把握するのは正直難しいのもまた事実だと思う。 <建設・住宅・不動産/300~999 人>
○基本は法令順守・コンプライアンスだと思う。労働条件の違いは、各種法令の範囲内であれば、当然存在してしかるべきであり、過酷な労働(残業時間の多さや有給休暇の取りづらさ等)や人間関係の悪さだけにスポットをあてるのは疑問に感じる。 <素材・化学/300~999人>
○ブラック企業と言われる企業の中でも、活躍し、やりがいを感じ、目標に向かって頑張っている方は多くいる。 <スーパー・コンビニエンス/~299人>
○ブラックは嫌だという前に自分は何がしたいか、どんな道で人生を歩んでいきたいかを考えるべき! <水産・食品/300~999人>
○学生のブラック企業に対するイメージを払拭するためにも、入社後の仕事内容や、勤務状況など、明確にするべきだと思う。 <エンターテインメント/300~999人>
○処遇面や評価制度については、入社の意思を確定するまでに調べておく、もしくは人事部門に確認すべき。<商社/5,000人以上>
《調査概要》 株式会社ディスコ「採用活動に関する企業調査」(2014年2月調査)
調査対象 : 全国の主要企業8,758社
回答数 : 1,006社
調査方法 : インターネット調査法
調査期間 : 2014年2月17日~26日
調査機関 : 株式会社ディスコ キャリアリサーチ
《調査概要》 株式会社ディスコ「2015年度日経就職ナビ学生モニター調査結果」(2014年1月発行)
調査対象: 2015年3月卒業予定の全国の大学3年生(理系は大学院修士課程1年生含む)
回答数: 1,650人(文系男子536人、文系女子494人、理系男子409人、理系女子211人)
調査方法: インターネット調査法
調査期間: 2014年1月1日~7日
サンプリング: 日経就職ナビ2015 就職活動モニター
※「日経就職ナビ 就職活動モニター調査」は、株式会社日経HRと株式会社ディスコが大学生の就職活動状況を調査することを目的として実施しています。
※日経就職ナビは日本経済新聞社が主管し、株式会社日経HRが企画・管理を担当し、株式会社ディスコが運営事務局を務めています。
<本リリースに関するお問合せ先>
株式会社ディスコ 社長室 広報担当
Tel:03-4316-5500 Email:pr@disc.co.jp
(株式会社ディスコ http://www.disc.co.jp/ /4月25日発表・同社プレスリリースより転載)